和菓子屋 叶 匠壽庵で取り組むイチモンジタナゴの保全活動
滋賀県でイチモンジタナゴは、タナゴ類の総称「ぼてじゃこ」(※1)の名で呼ばれるとても身近な魚でした。
しかしこの数十年のうちに、生息域の開発や外来種の影響などで激減し、現在では環境省レッドリストの最も絶滅の恐れの高いカテゴリーである絶滅危惧IA類に位置づけられ、滋賀県では指定希少野生動植物(※2)に指定されて捕獲禁止となっています。
2008年より寿長生の郷「ぼてじゃこ池」では、イチモンジタナゴの野生復帰の一環として、市民団体ぼてじゃこトラストさん(※3)、滋賀県立琵琶湖博物館さんと共にイチモンジタナゴの保全活動を行っています。
(※1)ぼてじゃこはタナゴ類の総称です。滋賀県でぼてじゃこと呼ばれる魚は、イチモンジタナゴのほかに、シロヒレタビラ、カネヒラ、ヤリタナゴ、アブラボテ、滋賀県の条例で指定外来種に指定されているタイリクバラタナゴ の6種類です。
(※2)指定希少野生動植物種の生きている個体は、条例に基づき、県下全域で捕獲・採取・殺傷・損傷(以下「捕獲等」という。)が原則として禁止されています。違反した場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。 滋賀県ホームページより引用
(※3)1996年に、琵琶湖淀川水系の小魚が棲める豊かな自然環境を守ることを目的に設立。イチモンジタナゴをシンボルとした生態系保全と、ぼてじゃこ文化を次世代につなげるワンパク塾を軸に活動しています。会員数約70家族、150名。
ぼてじゃこ池の三役
池では生物多様性の意味を目の当たりにします。中でもこの3種は、自然の命のつながりを教えてくれます。
ぼてじゃこ池では滋賀県古来の生きものたちと、人々のくらし文化を未来に届けられるよう活動しています。
イチモンジタナゴ
春から夏の繁殖期、鮮やかな婚姻色を現したオスと、産卵管を伸ばしたメスはペアをつくります。
メスは産卵管をさらに伸ばしてドブガイ類の中に卵を産みつけ、直後にオスが精子をまいて受精します。
ドブガイ類(二枚貝)
ドブガイ類のエラの中で孵ったイチモンジタナゴの稚魚は、約一か月間貝の中で育ちます。7㎜ほどになってはじめて、水中へと泳ぎ出ます。
ヨシノボリ
ドブガイの幼生はヨシノボリのヒレに寄生し、魚の体液を吸って育ちます。1~2週間ほどしてある程度の大きさになると、ヒレから落ち、水底での暮らしをはじめます。
主な活動
泥上げ 数年に一度の大事業
流れのない池や沼は、溜まった有機物や底の泥を定期的に除去しないと、次第に環境が悪化し、最終的には陸地となってしまいます。
泥上げでは池の水をぜんぶ抜きますが、このとき池の全容も明らかになります。
ぼてじゃこ池保全活動の歴史
2008年 出会い
イチモンジタナゴの育成場所を探していたぼてじゃこトラストさんの活動に、当時叶 匠壽庵代表の芝田清邦が賛同し、協力してゆくことが決まりました。
2008年 活動開始 - 放流
事前に行った池の調査でドブガイとヨシノボリの棲息が確認でき、イチモンジタナゴ100匹を放流しました。
2012年 順調な繁殖
100匹だったイチモンジタナゴは順調に繁殖し、一時は過密ともいえる1000匹と推測されるほどに。
この年開催された『イチモンジタナゴ交流会』資料の中に、芝田清邦のコメントが残っています。
ちいさい頃、浜大津で魚釣り。釣り上げるのは決まってボテジャコ。
今、私共の郷の池でイチモンジタナゴが育っています。みんなに見守られて育っている
イチモンジタナゴも、私共も、お互いに、いのちのつながりを喜んでいます。 (社長芝田清邦)
2020年 泥上げ
泥上げでは池の全容が明らかになります。この年イチモンジタナゴ286匹、ドブガイ126個を確認しました。
2024年 泥上げ
4年ぶりの泥上げです。イチモンジタナゴ357匹、ドブガイ155個を確認できました。順調です。
ぼてじゃこトラスト会長 琵琶湖博物館学芸員 川瀬成吾博士より
寿長生の郷におけるイチモンジタナゴの保護は、域外保全ではなく野生復帰の一環として位置づけられます。元の生息地の一つである瀬田川は外来魚がはびこっており、現状では野生復帰が不可能という状況下において、周辺の隔離された水域から生息範囲を広げていくことを狙います。
寿長生の郷の敷地内で、他の池や水路にも生息範囲を広げて安定的に個体数を維持できるようになり、さらに将来は、地域も巻き込んで瀬田川にも広がっていく、というようなストーリーが描けたら最高です。
※琵琶湖のぼてじゃこについて、叶 匠壽庵広報誌「烏梅」Vol.41内のコラムで詳しく取り上げております