「農工ひとつ」への想い
「菓子づくりの原点は農業から」
琵琶湖から唯一流れ出る瀬田川のほとり、滋賀県大津市大石龍門に寿長生の郷があります。六万三千坪の丘陵地を開墾し、本社を構え、この地から日々菓子を届けています。
菓子の原材料となる農作物を育てるのは叶 匠壽庵グループ 有限会社芝田果径。自ら栽培することで得られる素材へのこだわりが、ここ寿長生の郷にあります。
四季折々の花を咲かせる野の花や樹木、そして野生動物との共生。
自然と向き合い、恵みに感謝しながら、それぞれの仕事を担い、集う。自らが育てたものでおもてなししようという想いが自給自足を求め、炭を焼き、陶器をつくり、土を耕す。
美味しい菓子を届けたいと願う一人ひとりの思いが重なり、今日も郷の工房では菓子づくりの湯気が立ち上っています。
素へのこだわり
城州白
京都府城陽の青谷地区。
創業者・芝田清次が菓子に合う梅を探し求め巡りついたのは、この地でのみつくられている「城州白」でした。
希少性が高く、大粒で果肉も厚く芳醇な香りが漂うこの梅に惚れ込み、自社で梅をつくり育てたいと寿長生の郷を開きました。
6 月には小さな実がふっくらと重みを増し、熟したところを収穫できるのは自社栽培ならでは。
もぎたての梅は選別され、すぐ梅蔵へ。
じっくりと熟成させ、無駄なものは一切入れずに、旨味だけをぎゅっと集めた菓子へ生まれ変わります。
露茜
鮮やかな赤色がめずらしい「露茜」。スモモとの交雑で生まれた希少な新品種です。
叶匠壽庵の銘菓「標野」は、着色料を使用せず、茜さす蒲生の丘を表現するのが長年の願いでした。
職人でもある 3 代目 芝田冬樹が辿り着いたのは「露茜」。
着色料を使用せず、実も皮も赤い「露茜」を「城州白」と合わせることで、美しい色の階調を表現しました。
素材である「城州白」の栽培から梅酒の漬け込み、お菓子にするまでを自社内で行っている「標野」。「露茜」の栽培も始め、さらに「農工ひとつ」を体現する銘菓へと想いを込めて、育てています。
柚子
柚子の名産地、高知県安芸郡北川村。
種から育てた「実生」と呼ばれる柚子が多く、長い年月と手間暇をかけ出会うことができる希少な実は、香り高く、深みのある味わいが特徴です。
「黄金の果実」と呼ばれる北川村の柚子。一本一本手作業で育てられる柚子は、きめ細やかな肌の柚子玉を実らせます。
そこで栽培された苗木を寿長生の郷に移植し、北川村の柚子と共に菓子や料理に使用しています。
果肉、果汁、皮までまるごと味う柚子。育てた人の想いもまるごと味わえる果実なのです。
丹波大納言小豆
代表銘菓「あも」に合う小豆を探し求め、私たちは「丹波大納言」に辿り着きました。
国内生産わずか 1 %。小豆の名産地、丹波の気候に育てられた、高い品質を誇る小豆です。
大粒で、皮が薄く口に残らない「丹波大納言小豆」。
小豆の出荷までには、まず汚れのあるものが取り除かれ、次に重さ、大きさ、色の順に選別。最後に人の目と手の感覚によってキズやヒビのあるものが取り除かれ、言葉では伝えきれないその感覚は、匠のもと、経験を積むことで養われていきます。
こうして選別された小豆は、寿長生の郷に届けられ、叶 匠壽庵の餡として炊きあげられます。
餡炊き
この道一筋。
熟練の餡場職人はまるで呼吸をするかのように餡にヘラを入れます。季節によって、火の入れ方はもちろん、冷まし方までも変わるほどに繊細な餡づくり。
「コツは知らず知らずのうちに身につきました」。
そう微笑む職人は、ヘラを入れ、火を止めるタイミング等、小豆の良さが活きる炊き加減を知り尽くしています。
糖蜜に漬け込んだ丹波大納言 小豆に寒天を加え、じっくりと炊き上げれば、ふっくら艶やかなつぶ餡のできあがり。“幻の小豆”の味わい深さは、そのまま「あも」の風味になるのです。
取り組み
叶 匠壽庵SDGs宣言
叶 匠壽庵は滋賀県大津市を発祥とする和菓子屋として、地域に根差した商品と日本文化の継承を礎に営んできました。1985年には和菓子づくりは素材づくりであるとの思いから「農工ひとつ」を掲げ、大石の山林を開墾し、農園を持つ工場として「寿長生の郷(すないのさと)」を開郷。里山の中で自ら菓子の素材をはじめ、季節の花々を育て、日々自然の厳しさや恵みを肌で感じることでお菓子づくりへと発展させてきました。
今まで培ってきたヒトづくりやモノづくり、また寿長生の郷における里山環境での取り組みや地域住民との交流の中で生まれる課題をひとつひとつ洗い出し、持続可能な社会の実現に向けて解決していくことを宣言いたします。
和菓子であなたのキレイを応援します
私たち叶 匠壽庵では、和菓子には心もからだも豊かに、そして健康的にするチカラがあると考えています。
忙しさや時間に追われても、キレイでありたいという思いが尽きることはありません。
その願いを叶えるために、大切なのは〈心とからだが喜ぶ〉ものを選び、続けること。
おいしいだけではない、和菓子のチカラをもっと伝えることはできないか、との思いからキレイの秘密をお届けするプロジェクトを立命館大学スポーツ健康科学部の海老久美子先生と共に起ち上げました。
100年の里山づくり
寿長生の郷 六万三千坪には約350種の樹木と320種の草本が認められ、その上に私たち人を含むさまざまな生き物の暮らし、営みがあります。
叶 匠壽庵はこの自然環境を100年先に届けるため、社内有志からなるチーム「里山プロジェクト」を発足させ、全社に山林整備活動への参加を呼びかけはじめました。
山林の整備やニホンミツバチ養蜂などを通じて活動の輪を広げながら、地域に支持され、将来の人々の財産となる100年の里山づくりを続けていきます。
ニホンミツバチ 養蜂
ニホンミツバチはサバンナのライオンと同じ、野生の生きものです。
養蜂を始めて、わたしたちは彼女らから気づかされることがたくさんありました。自然の厳しさや偉大さ、命の精巧さ、儚さ、美しさ。きっとこれからも初めての驚きと感動が待っています。寿長生の郷はそんな体験を皆で共有できる場をこれからも作ってゆきたいと思っています。
広報誌『烏梅(うめ)』
あらゆるモノづくりを通して社会との繋がり、また和菓子などを生み出す叶 匠壽庵の姿勢を伝えていくため、従業員が中心となって製作に携わっている広報誌を発刊しています。
近江でも多く詠まれている「万葉集」。万葉仮名では梅を「烏梅-うめ-」と表記され、近江の歴史と寿長生の郷の梅林を重ね合わせ、タイトルとしました。