第九回 苦味の「キレイ」
2022/04/22
春から初夏にかけては優しいイメージがあるが、変わりやすい気候。
花粉のストレス、新年度を迎えて環境 の変化から自律神経も乱れがち…と、体は過酷な状況に陥りやすい季節だ。
「春苦味、夏は酢の物、秋は辛味、冬は脂肪と合点して食え」は、お隣、福井県出身の石塚 左玄の「食物養生法」の一説。
その土地の、季節ごとの恵みで体調を整えよとの意。
確かに、たらの芽、ふきのとう、わらびなど、山菜をはじめ、たくさんの植物が芽吹き、 その「苦味」を楽しむ機会が多い。
これらの苦味には、それぞれの植物が自身の身を守るために持っている、ポリフェノール 類や、各種ミネラルが豊富に含まれ、それが人体を酸化による錆びつきから守り、胃腸の働 きを促し、新陳代謝を促進する。
苦味はストレスに晒されやすいこの季節の味方となる。
また苦味は、単独では不快と感じることが多く、子どもの頃は文字通り苦手なものになりやすいが、味覚の成長に従って、他の味と一緒になると嗜好性を高めることを憶える。
いわ ゆる「クセになる味」として刻み込まれる。
お茶、コーヒー、チョコレート、ビールなど、身近で思い当たるものも多いだろう。
私は子どもらしくない子どもだったのか、この「苦味の嗜好性」に、幼い頃からはまっていたように思う。
その代表が、蓬(よもぎ)の苦味だ。
私の実家は、東京で唯一「平成の名水 100 選」に選ばれた湧水群の近くで、川辺に自生した蓬を摘むのが我が家の習慣になっていた。
そしてその蓬をこれでもかと入れて作る、舌と歯に蓬の葉脈と苦味が残る草餅・草団子は、他にはない春のご馳走だった。
当時それを母がどのように作っていたのか記憶が乏しく、良い機会だったので、東京で一 人暮らす母に聞いてみたところ、その答えが曖昧で、話が二転三転する。
思わず「本当にお 母さんが作ったの?」と疑ったが、「それは間違いない!」と瞬時に断言するので、ここは信じることにしよう。
「素材のキレイ」にも記したが、蓬には緑黄色野菜としての栄養素の密度が高い。
さらに香 り成分のα-テルピノールには抗菌作用や抗炎症作用、ユーカリプトールにはリラックス効果や食欲増進効果など、ざまざまな「キレイ」が期待されている。
今も、私の草餅・草団子の評価基準は「蓬感の高さ」に尽きる。
「春苦味」を極めた、草 餅・草団子の誕生を妄想している。